Longevity Records: Life Spans of Mammals, Birds, Amphibians, Reptiles and Fishを見ていく。でも長い名前だなあ。こんな名前を毎回書くのも嫌だし、読むにもお困りだろう。そこで以下「レコーズ」と略記することにする。
レコーズには4つの巨大な表が収録されている。哺乳類、鳥類、爬虫類+両生類、魚類だ。それぞれに異様に多数の動物の長寿記録がリストされており、各行にその記録の出典記載にジャンプするリンクがついている。
すべての記録は学術論文や学術雑誌からとられている。学者が書いたものだから正確というわけでもないが、野方図にいろんなところから持ってくるわけにもいかんので、これはこれでひとつの見識ある方針であるといえよう。
ただ、この限定された収集方法のせいで、信頼できる情報であっても記載されていないケースも多いであろうことは想像に難くない。たとえば鳥羽水族館で飼育されていたスナメリは推定35歳(飼育期間29年)であるが、レコーズのスナメリ(Finless porpoise)の記録を見てみると23.0となっており、鳥羽水族館のものの飼育期間よりも短い。
膨大な数の種が掲載されているが、それでも載っていないものもある。たとえばヤマネ。日本特産だからしかたないのかもしれないが、これは表の中に見当たらない。
それこれを念頭に置きつつ利用しなくちゃならないわけだ。
レコーズは動物ごとに、学名、英名、記録された寿命(飼育下か野生かの別)、性別、出典が記されている。また記載時点で生存しているものについては(つまり寿命はそれより当然長くなる)プラスの記号で表現されている。
まずは哺乳類の表を保存し、エクセルデータに加工する。
同じ種で複数行の掲載になっているものもあり、同一行の野生/飼育の両方のセルにデータが入っているものもある。それらをばらして数えてみると、のべ1623件の記録が掲載されている。記録された哺乳類の寿命の単純平均は18.6年、飼育下のそれが17.5年、野生が20.2年である。
野生の方が長いのは、ご長寿グループであるクジラ目に属するクジラたち(当然野生です。水族館で飼える大きさじゃないしね)が平均を押し上げていることも原因のひとつであるかと思われる。
ただ、この野生/飼育という区分も多少の疑問点もある。この表にはヒトも掲載されているが、これはすべて飼育下ということになっている。これ自体はよしとしよう。ヒトは野生であるとは言いがたい。しかしネコ(Domestic cat←レコーズでの表記。以下煩雑ではあるが適宜表内の英語表記や学名を付記していくことにする。レコーズを自分で見てみようと思われる方への便宜のつもり)は「野生」ということになっている。イヌ(Domestic dog)も同じ。野良猫・野犬という可能性はなくはないが、常識的に考えてそれはないだろう。レコーズ判読に際しては飼育/野生の区分にあまり拘泥しないほうがいいのかもしれない。
さて、哺乳類。
哺乳類哺乳類と言っているけど、分類的には正しくは哺乳綱であり、綱の下の分類単位が目だ。哺乳綱は以下の21の「目」に分類される。
単孔目(Monotremata)
有袋目(Marsupialia)
霊長目(Primates)
食虫目(Insectivora)
翼手目(Chiroptera)
ツパイ目(Scandentia)
皮翼目(Dermoptera)
食肉目(Carnivora)
鰭脚目(Pinnipedia)
貧歯目(Edentata)
有鱗目(Pholidota)
クジラ目(Cetacea)
奇蹄目(Perissodactyla)
偶蹄目(Artiodactyla)
ハイラックス目(Hyracoidea)
海牛目(Sirenia)
長鼻目(Proboscidea)
管歯目(Tubulidentata)
囓歯目(Rodentia)
ウサギ目(Lagomorpha)
ハネジネズミ目(Macroscelidea)
漢字2字のとカタカナのがあるが、総じてカタカナは最近の分家である。ツパイ目はかつては霊長目の一部と考えられていたが、今ではそこから独立し、別の目であるとなった。ウサギもぼくが高校生くらいまでは囓歯目の一部であると言われていた。
ともあれレポートでも表はこの21分類に従って表現されている。目別にまとめてみると次の表のようになる。
| 分類 | 件数 | 寿命平均 | 最高寿命 | 最高種名 | 最低寿命 | 最低種名 |
|---|
| 長鼻目 | 10 | 68.4 | 80.0 | インドゾウ(Elephas maximus) | 40.0 | インドゾウ(Elephas maximus) |
| クジラ目 | 61 | 45.5 | 116.0 | ナガスクジラ(Balaenoptera physalus) | 15.0 | ネズミイルカ(Phocoena phocoena) |
| 奇蹄目 | 30 | 35.7 | 62.0 | ウマ(Equus caballus) | 20.0 | ヤマシマウマ(Equus zebra) |
| 海牛目 | 9 | 35.6 | 70.0 | ジュゴン(Dugong dugon) | 12.5 | アマゾンマナティー(Trichechus inunguis) |
| 鰭脚目 | 76 | 30.1 | 56.0 | バイカルアザラシ(Phoca sibirica) | 14.0 | キタゾウアザラシ(Mirounga angustirostris) |
| 単孔目 | 8 | 28.6 | 50.0 | ハリモグラ(Tachyglossus aculeatus) | 17.0 | カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus) |
| 霊長目 | 360 | 25.2 | 60.0 | チンパンジー(Pan troglodytes) | 5.4 | アイアイ(Daubentonia madagascariensis) |
| 管歯目 | 5 | 19.6 | 24.0 | ツチブタ(Orycteropus afer) | 10.0 | ツチブタ(Orycteropus afer) |
| 偶蹄目 | 220 | 19.2 | 54.5 | カバ(Hippopotamus amphibius) | 1.0 | チャコペッカリー(Catagonus wagneri) |
| 皮翼目 | 1 | 17.5 | 17.5 | ヒヨケザル(Cynocephallus spp.) | | |
| 食肉目 | 254 | 17.0 | 50.0 | ハイイログマ(Ursus arctos) | 7.5 | ダークマングース(Crossarchus obscurus) |
| 貧歯目 | 18 | 15.7 | 32.1 | ホフマンナマケモノ(Choloepus hoffmanni) | 2.3 | ヒメアリクイ(Cyclopes didactylus) |
| 翼手目 | 47 | 13.9 | 31.4 | インドオオコウモリ(Pteropus giganteus) | 2.1 | アシナガヒナコウモリ*(Myotis volans) |
| 有鱗目 | 2 | 13.3 | 13.5 | インドセンザンコウ(Manis crassicaudata) | 13.0 | インドセンザンコウ(Manis crassicaudata) |
| ハイラックス目 | 8 | 10.8 | 14.0 | キボシイワハイラックス(Heterohyrax brucei) | 5.5 | キノボリハイラックス(Dendrohyrax dorsalis) |
| 有袋目 | 163 | 9.0 | 17.0 | アカカンガルー(Macropus rufus) | 0.9 | チャアンテキヌス(Antechinus stuartii) |
| ツパイ目 | 3 | 8.9 | 12.4 | コモンツパイ(Tupaia glis) | 2.7 | ハネオツパイ(Ptilocercus lowii) |
| ウサギ目 | 14 | 8.2 | 18.0 | カイウサギ(Oryctolagus cuniculus) | 4.0 | ステップウサギ(Ochotona pusilla) |
| 囓歯目 | 267 | 6.8 | 27.3 | マレーヤマアラシ(Hystrix brachyura) | 0.5 | ダイスンダネズミ(Sundamys muelleri) |
| 食虫目 | 57 | 4.4 | 14.0 | ナミハリネズミ(Erinaceus europaeus) | 1.0 | トガリネズミの1種(Sorex fumeus) |
| ハネジネズミ目 | 6 | 4.1 | 8.8 | ナガミミハネジネズミ*(Elephantulus intufi) | 1.1 | ナガミミハネジネズミ*(Elephantulus intufi) |
|
目での平均寿命でもって並べ替えてある。こうして見てみると、やはり大型の動物を擁するグループが上位を占めているのがわかる。長尾目がトップなのは、要するにインドゾウとアフリカゾウしかいないせいだ。2種の動物しかいないのに10件のレコードがあるのは、同じ動物が複数掲載されているからだ。そのため長尾目の最下位はトップと同じインドゾウになっている。80歳のインドゾウの記録があるんだから、なにも40歳の記録をのせることはあるまいと思うんだが、なぜかそういうことになっている。このように、同じ種の動物がダブって掲載されていることで、不必要に平均を下げてしまうことになるが、めんどくさいので、そのままにしてある。ちなみにアフリカゾウの記録も80歳だ。
2位のクジラ目はヒトを除く全哺乳類の中で首位であるナガスクジラを擁しているし、全分類を通じてのベストテンでみても上位独占って感じだけど、このグループには比較的小型の動物もいるため、平均はゾウに譲っている。
大型ということもあるが、海の動物は長生きだ。クジラ目(クジラとイルカ)、海牛目(ジュゴントマナティ)、鰭脚目(セイウチ、アザラシ、アシカ)と、海にすむものは総じて寿命が長い。これはなんとなく「感じ」でも納得できる。海の中に浮かんで生きていれば、なんとなく長生きできそうじゃないですか。
ただ、この仲間で最高のご長寿さんはバイカルアザラシ、2位はカスピカイアザラシ(50年)であり、どちらも内陸の湖にすむというところが興味深い。カラダの大きさという点では、これらは小型のアザラシであって、バイカルアザラシの体重はグループ最大のゾウアザラシの80分の1程度しかないという。レコーズの記載の中では、ミナミゾウアザラシの最高記録は20年にすぎない。
ここでも「ゾウの時間・ネズミの時間」法則が崩れている。カラダが大きいものが長生きとは限らないのだ。
ゾウ・ネズミ法則(と略しちゃうけど)の破綻は単孔目にいたってもっと顕著である。単孔目というのは、非常に原始的なグループで、哺乳類にありながら、卵で生まれる。「哺乳」こそしているものの乳頭はなく、恒温性も不完全だ。哺乳類の原形のようなグループなのである。これがみなさんけっこうのご長寿。レコーズでは3種8件の記録を載せている。各種の最高記録をピックアップしてみると、ハリモグラが50年(プラスマークがついているから、その時点でまだご存命)、ナガハシハリモグラ(Zaglossus bruijni)が31年、カモノハシが17年である。注目すべきは、かれらの大きさで、ハリモグラはせいぜい6kgどまり、カモノハシは2kgほどだ。それでハイイログマ(グリズリーって言った方がわかりやすいか)と同程度の寿命なんですからね。
少なくとも、哺乳類の進化にあっては「寿命を延ばす」という方向には進まなかったのだろう。