犬の名前について、ちゃんと調べようと思っているのだけれど、想像するだけで大仕事になりそうで、今、本業が忙しいので、開始に二の足を踏んでいる。
そこで、現状調査の前に、本で見た犬の名前を列挙することで、明治以前の犬の名前の構造を考えてみたい。
日本書紀垂仁天皇紀に
昔丹波国の桑田村に、人有り。名を甕襲(みかそ)といふ。即ち甕襲の家に犬有り。名を足往(あゆき)といふ。是の犬、山の獣(しし)、名を牟士那(むじな)といふを喰ひて殺しつ。即ち獣の腹に八尺瓊(やさかに)の勾玉有り。因りて献(たてまつ)る。是の玉は、今 石上神宮に有り。<岩波文庫日本書紀(2)52ページ>
とある。
これがぼくが確認した中では、最も古い犬の名前だ。日本書紀より古い書物は、日本の歴史の中にはほとんどないから、おそらくこれが日本最古の“文献にあらはれたる犬の名”ではないかと思う(もし違っていたら教えて下さい)。
だいたい人の名前にしたってミカソなんていうんだから、犬の名前が奇妙なのは、いたしかたない。ただ「足が早い→アユキ」っていうような名前の付け方は、その後も現在に至るまでありうるように思う。
古典でもっとも有名な犬の名前は、枕草子に出てくる「翁丸」だろう。
冗談で「猫を噛んでやりなさい」とけしかけられたのを“ホンキに”とって噛んでしまったために放逐される犬である。
PHP新書「犬の日本史」(谷口研語)は、犬から見た日本史って本だけれど、この中なら、“名前のついた犬”に記述を抜き出してみると(上の2例は省く)、
麻奈志漏(播磨国風土記 応神天皇の飼い犬、まなしろ、マナは愛娘などのまな、愛するシロっていう意味?)
有情、無情(足利義満の愛犬。禅僧が命名。さもさもの名だね)
犬獅子(南北朝時代の、軍功抜群の軍用犬)
ボール(平戸藩初代藩主松浦鎮信 イギリス商館から贈られた洋犬)
八房(ごぞんじ、南総里見八犬伝の犬)
人の名前ならいっぱいでてくる本なのだが、犬の名前はたったこれだけ。寂しいような気がする。
しかし、これらの名前が、すべて「人の名前」と一線を画しているということは注目してもいいんじゃないか、と思う。